Difyエンタープライズ版とは?コミュニティ版との違いから導入方法まで徹底解説
目次
はじめに1. Difyの提供形態の違いを理解するDifyのコミュニティ版とはDifyエンタープライズ版の特徴エンタープライズ版を選択すべき企業2. セルフホスト型のDifyを導入する際に直面する課題2-1. コミュニティ版とエンタープライズ版の共通の課題2-2. コミュニティ版をチームで使う際の課題3. エンタープライズ版Dify導入への進め方Step1: コミュニティ版でPoC(概念実証)Step2: 課題整理とエンタープライズ版の検討Step3: ライセンスの取得Step4: 導入・運用体制の検討4. エンタープライズ版導入に必要なポイント① セキュリティ要件チェック② インフラ選定(公式推奨:Kubernetes)③ 運用体制の構築5. 導入検討時に考えるべきポイント(コミュニティ版で十分か?)6. カカクコムの事例7. Dify導入後の教育・推進の進め方も大事まとめ(最後に)サービス紹介お問い合わせ採用
はじめに

企業におけるAIの活用が急速に進むなかで、ノーコードでAIアプリケーションを構築できるDifyが注目を集めています。Difyはオープンソース(OSS)として無料で利用できることから、多くの企業で導入が進んでいます。
しかし、全社規模で本格的にビジネス利用する場合、コミュニティ版では機能、セキュリティ、サポートの面で不十分となる可能性があります。これらの問題を解決する選択肢として、Dify公式のエンタープライズ版を利用する方法があります。
本記事では、Difyエンタープライズ版とコミュニティ版の違い、導入プロセス、運用やセキュリティなど導入時に押さえるべきポイントを詳しく解説します。
1. Difyの提供形態の違いを理解する
まず、Difyの提供形態を整理しましょう。現在、Difyは3つの形態で提供されています。
# | コミュニティ版 | エンタープライズ版 | SaaS版 |
---|---|---|---|
サービス | セルフホスト | セルフホスト | クラウド |
利用料金 | 無料 | 有償ライセンス | 有償(サブスクリプション) |
ホスティング環境 | 自社サーバー・クラウド環境での運用 | 自社サーバー・クラウド環境での運用 | 不要 |
ワークスペースの作成 | ❌ | ⭕️ | ⭕️ |
SSO | ❌ | ⭕️ | ❌ |
主な用途 | PoCや小規模展開 | 全社的にAI活用を推進 | 手軽に始めたい個人・小規模チーム |
向いている利用企業 | 中小企業 | 大規模展開・厳格なコンプライアンス要件の企業 | 運用負荷を抑えたい企業 |
注意 | サポートはコミュニティベース、機能アップデートが遅れる可能性がある | 安定性重視のため、OSS版の最新機能の反映が遅れることもある | データはDifyのクラウド上で管理 ナレッジ登録数の制限などがある |
Difyのコミュニティ版とは
Difyのコミュニティ版はOSSで無料で利用できる点が大きな魅力です。セルフホスティング型のため、自社のサーバーやクラウド環境に自由に構築できます。OSS版とはいえ、基本的な機能は充実しており、各LLMとの接続やRAG(Retrieval-Augmented Generation)によるナレッジ連携など、Difyの主要な機能は利用可能です。
Difyのコミュニティ版は、PoCや部門単位での小規模な利用におすすめですが、公式のテクニカルサポートがないため、高負荷時の安定性やセキュリティガバナンスなどの面で課題が発生する可能性があります。
Difyエンタープライズ版の特徴
エンタープライズ版は有償ライセンスとなりますが、企業利用に必要な機能が充実しています。
主な特徴は以下のとおりです。
- ワークスペース機能: 部門やプロジェクトごとに独立した開発環境(ワークスペース)を作成できます。これにより、部門やプロジェクトごとにアプリケーションやナレッジを区別して、開発・運用が可能です。
- 高度なセキュリティ機能: SAMLやOIDCに対応したシングルサインオン(SSO)連携、メンバーの役割に応じた詳細な権限管理(RBAC)、操作履歴を記録する監査ログ機能など、企業の厳格なセキュリティポリシーに対応するための機能が提供されます。
- 公式サポートとSLA: 専門チームによる技術サポートや、サービスの品質を保証するSLA(Service Level Agreement)が提供されます。
エンタープライズ版を選択すべき企業
以下のような企業にはエンタープライズ版の利用がおすすめです。
- 大規模な利用を前提としている企業
- セキュリティ要求が厳しい企業
- 長期的かつ安定した運用を目指す企業
2. セルフホスト型のDifyを導入する際に直面する課題

DIfyをセルフホスト環境で運用する場合、多くの企業が技術的・運用的な課題に直面します。コミュニティ版とエンタープライズ版の両方に共通する課題もあれば、コミュニティ版特有の制約による課題も存在するため、導入前にこれらの課題を十分に理解しておくことが重要です。
本章ではDifyをセルフホスト環境に導入する場合の課題を解説します。
2-1. コミュニティ版とエンタープライズ版の共通の課題
セルフホストでDifyを運用する場合、以下のような課題が発生します。
- 構築の複雑さ
- インフラの自前構築に時間・コストがかかる
- 単純なアーキテクチャーでは負荷増大や利用規模拡大時にパフォーマンスが低下する可能性があるため、可用性を考慮した設計が必要
- バックアップやバージョンアップの運用負荷が大きい
- 運用サポートの不安
- コミュニティ版はコミュニティベースでのサポートに限定され、専門的な迅速対応は難しい
- 企業レベルでの安定運用に必要な専門知識の習得が必要
- 障害発生時の迅速な対応が困難
2-2. コミュニティ版をチームで使う際の課題
コミュニティ版をチームで利用しようとすると、エンタープライズ版にはない特有の課題が挙げられます。
- 運用面での課題
- ワークスペースが作成できないため、複数ユーザーでの管理が困難
- 様々なユーザーが作成したアプリケーションが混在し、整理が困難
- 作成したワークフローが他のユーザーによって意図せず変更されるリスク
- 運用ルールによる制御機能が不十分
- セキュリティ要件の不足
- エンタープライズレベルのセキュリティ機能が制限される
- SSO(シングルサインオン)連携が利用できない
- 詳細なアクセス制御や監査ログ機能が不十分
- データガバナンスに関する機能が限定的
3. エンタープライズ版Dify導入への進め方

Difyのコミュニティ版からエンタープライズ版への移行は以下のような手順で進めます。
- コミュニティ版でPoC
- 課題整理とエンタープライズ版の検討
- ライセンスの取得
- 社内リソースの確認 or ベンダーへのアウトソーシング
以下ではそれぞれの流れについて説明します。
Step1: コミュニティ版でPoC(概念実証)
まずは無料のコミュニティ版を導入し、Difyの基本的な機能や操作感を理解します。
実際にDifyを使うことで、社内のどのような業務に活用できそうか、具体的な利用ニーズを把握し、本格導入に向けたイメージを掴むことが重要です。
Step2: 課題整理とエンタープライズ版の検討
コミュニティ版での検証を通じて明らかになった課題(運用面、安定性、セキュリティ等)を整理し、エンタープライズ版での解決策を検討します。
例えばユーザー管理が煩雑、権限制御できないといった課題に対しては、エンタープライズ版のSSOやRBAC機能を活用するといった解決策が挙げられます。
このように、コミュニティ版で発生した課題に対してエンタープライズ版でどう解決できるか確認しましょう。
Step3: ライセンスの取得
Difyの公式パートナーや正規のライセンス代理店を通じて、エンタープライズ版のライセンスを取得します。
代理店とは、サポート体制、価格、導入範囲(ユーザー数など)についての詳細を調整しましょう。
Step4: 導入・運用体制の検討
エンタープライズ版の導入にあたり、インフラの構築や継続的な運用を自社で行えるか検討します。Difyの構築や運用を担当できるスキルを持った人材がいるか確認しましょう。
もし社内での対応が難しい場合は、Difyの導入・運用実績が豊富な外部ベンダーへの委託を検討します。構築と運用は密接に関わるため、構築から運用まで一貫して任せられるベンダーを選ぶのがおすすめです。
4. エンタープライズ版導入に必要なポイント

Difyエンタープライズ版の導入を成功させるためには、単にライセンスを取得するだけでは不十分です。企業の厳しい要件を満たして安定的かつ継続的に活用していくためには、技術面と組織面での準備が必要です。
この章では、エンタープライズ版導入に必要なポイントとして「セキュリティ要件の確認」「インフラの選定」、そして「運用体制の構築」という3つを紹介します。
① セキュリティ要件チェック
Difyのエンタープライズ版で対応可能なセキュリティ機能は以下の通りです。
認証・認可機能
- シングルサインオン(SSO)連携: SAML 2.0やOIDCプロトコルに対応し、OktaやAzure ADなどのIDプロバイダーと連携できます。
- 詳細な権限管理(RBAC): ワークスペースごとに、オーナー、管理者、通常メンバーといった役割を設定し、機能へのアクセス権を細かく制御できます。
- 監査ログ: 各ユーザーの実行履歴を記録できます。
管理機能
- ワークスペース管理機能: 部門やプロジェクト単位で独立した「ワークスペース」を作成・管理できます。
- チーム管理機能: ワークスペース内でチームメンバーの招待や役割設定が可能です。
- Web App アクセス権限制御: 作成したAIアプリケーションへのアクセス権を柔軟に設定できます。
サポート
- アプリケーションのSLA保証: サービス品質保証契約により、安定した稼働が保証されます。
② インフラ選定(公式推奨:Kubernetes)
Difyのエンタープライズ版を構築する際、公式ではKubernetesベースでのデプロイが推奨されています。
Kubernetesとは: コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するためのオープンソースプラットフォームです。
Kubernetesのメリットは以下のとおりです。
- オートスケーリング対応で負荷変動に強い
- 運用管理が容易
- セキュリティや運用体制の強化が可能
- クラウドサービスを使うのが基本
Kubernetesのデメリットは以下のとおりです。
- 学習コストが高い
- 拡張性が高くて設計が難しい
Kubernetesを利用する際には、主要なクラウドプロバイダーが提供するマネージドKubernetesサービスを利用するのが一般的です。例えば、Google Kubernetes Engine (GKE), Amazon Elastic Kubernetes Service (EKS), Azure Kubernetes Service (AKS)などが挙げられます。
③ 運用体制の構築
安定した運用を実現するためには、組織的な体制整備が不可欠です。
まず、社内からの問い合わせに対応するサポート窓口や、システムの維持管理を担う運用チームといった、それぞれの役割を明確に定義します。
次に、万が一の障害発生に備え、バックアップからの復旧手順や関係者への連絡フローを事前に整備しておくことで、迅速な対応が可能になります。
さらに、システムの稼働状況を常時監視し、問題の早期発見や原因究明に役立つログを収集・分析する環境を構築するといった効果的な運用体制を整えましょう。
6. カカクコムの事例

価格比較サイトを運営する株式会社カカクコムでは、大規模言語モデル(LLM)の活用を全社的に推進するため、Difyを導入しています。
同社では、生成AIの活用を進めるにあたり、AIエンジニアの不足、アプリケーション開発にかかる時間、そして運用負担や費用対効果といった複数の課題に直面していました。これらの課題を総合的に解決できるソリューションとして、ノーコードで迅速にAIアプリケーションを構築できるDifyが選ばれました。
Difyの導入により生成AIの利用が全社的に広がり、アクティブユーザー数は約27%増加しました。また、財務経理部門における問い合わせ対応時間が15%削減されるなど、実業務の効率化を実現しています。また、食べログ店舗紹介記事の作成工数を1か月から1日に短縮したり、価格.com製品情報登録作業を3時間で完了したりといった、劇的な業務効率化も報告されています。
株式会社カカクコムはDifyを全社的なAI活用基盤として導入することで、開発スピードを劇的に向上させ、業務の大幅な効率化を実現しています。
7. Dify導入後の教育・推進の進め方も大事

Difyを導入して終わりではなく、全社に浸透させて活用を促進するための取り組みが不可欠です。
まずは、ユーザーがノーコードツールを使いこなして日々の業務に活かすスキルを習得できるような体制を整えます。具体的には、研修会や勉強会といった社内AI教育プログラムを計画的に実施するといったことがあげられます。
その後、そうした取り組みから生まれる優れた活用事例や便利な使い方を積極的に共有できる機会を提供します。ユーザー同士が学び合うコミュニティを形成することで、活用の輪を広げていきましょう。
さらに、定期的な成功事例の共有会や積極的な社内コミュニケーションを取ることも重要です。Difyの社内浸透を目的とした普及活動を推進し、組織全体でAI活用を進めていきましょう。
これらの活動を連携させることで、Difyは単なるツールではなく、全社の生産性を向上させるための強力な文化として根付いていくでしょう。
まとめ(最後に)

Difyにはコミュニティ版やエンタープライズ版といった提供形態があります。コミュニティ版は初期検証や小規模利用には適していますが、本格的な企業利用を考える場合はエンタープライズ版の検討が必要です。
Difyの導入を成功させるためには、インフラ構築、セキュリティ要件の整理、ライセンス取得、運用体制の整備が重要となります。インフラ構築はKubernetesが推奨されています。
さらに、技術的な導入だけではなく、社内教育や推進活動といった組織的なアプローチも成功の鍵となります。
まずはコミュニティ版での検証から始めて、組織のニーズに応じてエンタープライズ版への移行を検討するのがおすすめです。