状態空間モデル(SSM)とは?初心者向けに基礎と活用事例を丁寧に解説
[updated: 2025-05-29]
はじめに
状態空間モデル(SSM)は「見えない情報を、見えるデータから推定する」という極めて直感的かつ強力な枠組みです。たとえば、株価の背後にある投資家心理や、気温の背後にある気圧の変化など、私たちが直接観測できない“真の状態”を推測するために使われます。数学的にやや難解に見えるかもしれませんが、その構造を理解すれば、さまざまな分野に応用可能です。
さらに、カルマンフィルターをはじめとする推論アルゴリズムは計算効率が高く、必要とするメモリ使用量も比較的少ないため、リアルタイム処理や組み込みデバイスでの実装にも適しています。
今回は「状態空間モデル(State Space Model、以下SSM)」の基本構造と活用方法について、わかりやすく解説します。
状態空間モデルとは?:観測できない「状態」を推定する仕組み
状態空間モデルの基本概念
状態空間モデルとは、「観測できない内部状態(latent state)」と「実際に観測されたデータ(observed data)」との関係性を、数式によって表現する統計的手法です。
たとえば、次のような構図がSSMに当てはまります:
観測データ | 背後の見えない状態 |
気温、湿度、風速 | 気圧、前線、気流の動き |
株価の時間的変化 | 投資家の心理、経済政策の影響 |
心拍数や血圧の変動 | ストレス、疲労、体調の変化 |
このように、私たちが「見える」データの背景には、必ず「見えない」構造や状態があります。SSMはこのギャップを埋めるための数学的なフレームワークです。
出典
状態空間モデルの数式構造:2つの方程式から成るシンプルな仕組み
SSMは、大きく2つの方程式で成り立ちます。
① 状態方程式(State Equation)
これは「状態が時間とともにどのように変化するか」を記述するものです:
- :時点 の隠れた状態
- :状態遷移行列
- :状態ノイズ(ガウス分布に従う誤差項)
② 観測方程式(Observation Equation)
こちらは「その状態から観測データがどのように得られるか」を示します:
- :時点 の観測値
- :観測行列
- :観測ノイズ観測ノイズ(観測誤差、外部要因など)
注釈
ここで、状態方程式と観測方程式に含まれるノイズ項は、それぞれ次のように定義されます:
- 状態ノイズ: wₜ ~ N(0, Q)
- 観測ノイズ: vₜ ~ N(0, R)
つまり、いずれも平均 0、共分散行列 Q および R に従う多変量正規分布と仮定されます。
また、隠れ状態 xₜ が n 次元ベクトル、観測値 yₜ が m 次元ベクトルであるとすれば:
- 状態遷移行列 A ∈ ℝⁿ×ⁿ
- 観測行列 C ∈ ℝᵐ×ⁿ
となり、数式の次元整合性が保たれます。
この2つの方程式をセットで用いることで、見えない状態と観測されたデータを結びつけることができます。特に線形かつガウス分布を前提とした「線形ガウスSSM」は、実務上もよく利用されます。
出典
状態空間モデルの魅力と課題
魅力:データの裏にある“構造”を可視化できる
SSMの最大の魅力は、目に見えない構造や状態を数式と推論によって「見える化」できる点です。この推定には、「カルマンフィルター(Kalman Filter)」というアルゴリズムが使われ、状態の逐次的な更新を可能にします。
また、カルマンフィルターは逐次更新のたび𝑂(n²) または 𝑂(𝑛) 程度の演算で済む構造を持っており、計算効率に優れること、推定対象の次元が適切であればメモリ使用量も抑えられることが実務上のメリットです。
課題:設計とノイズの扱いが難しい
ただし、SSMの構築には以下の点で注意が必要です。
課題 | 説明 |
初期状態の選定 | モデルの出発点が不適切だと、全体の推定精度が下がる |
ノイズの分散の設定 | 状態ノイズと観測ノイズのバランスが重要 |
線形・ガウスの前提が現実に合うかの確認 | 複雑な現実には非線形SSMや粒子フィルターの導入も検討が必要 |
出典
Pythonで実践:SSMを簡単に試してみる
Pythonでは、ライブラリを用いることで、SSMを簡単に構築できます。
必要なライブラリ
サンプルコード(ローカルレベルモデル)
結果の見方
出力項目 | 意味 |
level | 推定された状態(トレンド) |
endog(Observed) | 実際に観測されたデータ(plot 上の“Observed”) |
resid | 状態推定と観測の差(モデルの誤差) |
注釈
👆 ここでいう “Observed” は、結果オブジェクトの属性名 を指します。
ではラベルとして “Observed” が表示されますが、
コードからアクセスするときは下記を参照してください。
このように、観測されたデータの背後にある「本質的な動き」を理解するのにSSMは非常に役立ちます。