【XAI完全ガイド】ISO 42001で求められる説明可能AIの必修ポイント

[updated: 2025-07-11]

はじめに

2023 年 12 月に発行された国際規格 ISO/IEC 42001:2023 は、組織が AI マネジメントシステム(AIMS) を構築し「AI がどのように判断したのか」を説明できることを要求しています。さらに 2024 年には EU AI Act が成立し、高リスク AI に対して透明性が義務化されました。これらの潮流の中心にあるのが XAI(説明可能なAI) です。

ISO 42001時代になぜXAIが必須なのか

  • 信頼性の担保:ブラックボックスモデルでは審査時に根拠を示せず、ISO 42001 の取得が難航しやすい
  • 規制リスクの低減:EU AI Act は 2026 年 8 月までに全面適用。高リスク AI で説明責任を怠ると、グローバル売上高の最大 7 % あるいは 3,500 万 €(約60 億円/ 202507時点レート)の罰金が科され得る
    • 違反類型により下記のような段階があります
      • 35 M € / 7 %(禁止行為等)・・・(約60 億円/ 202507時点レート)
      • 15 M € / 3 %(高リスク義務違反)・・・(約25.7 億円/ 202507時点レート)
      • 7.5 M € / 1 %(虚偽情報)・・・(約12.8 億円/ 202507時点レート)
  • ビジネス価値の向上:意思決定プロセスの可視化は、顧客・監査人からの信頼獲得に直結する

「2026 年 8 月までに全面適用」とは?

EU AI Act(AI 規則)は 2024 年に成立し、次の 3 段階で施行 されます。
段階内容発効時期日本企業への影響
第 1 段階禁止 AI(無差別監視など)の排除2025 年 2 月EU 向け提供がなければ影響なし
第 2 段階高リスク AI システムの適合義務(説明責任・監査体制など)2026 年 8 月 ←これが「全面適用」と呼ばれるEU で提供・利用する場合のみ対象
第 3 段階GPAI(基盤モデル/LLM など)の追加義務2025 年 8 月〜順次EU 向けモデル提供がある場合に対象
💡ポイント
  • 日本国内限定で開発・提供する AI には原則適用されません
  • ただし EU 顧客が使う・EU からアクセスできる 場合は、開発拠点が日本でも Act の義務が発生します。

AI を作る会社は全部、説明責任を負わされる?

EU AI Act は リスクベース の枠組みで、義務の有無を以下のように分けます。
リスクレベル主な対象例主な義務日本企業への関係
禁止(Unacceptable)社会的信用スコア、無差別監視全面禁止日本でも EU 向けに提供すると違反
高リスク(High)採用・教育選考、与信審査、重要インフラ登録・技術文書・監査・人による監督EU 市場で提供・運用するときのみ対象
限定リスク(Limited)チャットボット、生成 AI の出力透明性表示(「AI 使用中」ラベル等)EU 向け SaaS で適用
最小リスク(Minimal)スパムフィルター、ゲーム AI義務なし影響ほぼなし
要するに
  1. 高リスク AI を EU で「開発・提供・運用」する企業だけ が重い説明責任を負う。
  1. 日本国内だけで使う/提供する 場合は、EU AI Act の直接義務は 原則生じない
  1. ただし 「EU ユーザーが結果に依存するサービス」(採用 SaaS など)に使うと、日本企業でも Act の高リスク義務が掛かる。
 

使い分けの具体例

事例EU AI Act の適用対応策
日本企業が日本ユーザー向けにのみ生成 AI を提供適用外特に Act への対応不要
同じ生成 AI を EU 向けにも API で提供限定リスク(透明性義務など)利用規約と UI に「AI 生成物」である旨を表示
採用選考 AI を欧州支社で運用高リスク技術文書・リスク管理・人による監督体制を構築
日本の製造業が欧州工場向けに品質検査 AI を販売高リスクCE マーキング相当の適合評価が必要
💡まとめ
  • 日本市場だけ で AI を提供・利用する限り、EU AI Act は 直接適用されない
  • EU 顧客・パートナー・拠点と関わる場合――たとえ開発が日本でも 適用対象 になる。
  • 将来 EU 展開の可能性がある企業は、初期設計段階から EU AI Act の要件(透明性・ログ保存など)を意識した方がコストを抑えられる
 

ISO 42001 の概要と「説明可能性」要件

ISO 42001 は PDCA サイクルを AI 向けに拡張した構成で、Clause 4〜10 が主な要求事項です。なかでも説明可能性(Explainability)は次の Clause に関連します。
Clause領域説明可能性チェックポイント
6 – Planningリスクおよび機会への取組みAI 判断が利用者へ与える影響を特定し、説明戦略を計画
8 – Operation運用管理モデルのロジックや学習データを再現可能な形で保管
9 – Performance Evaluation監視・測定・分析および評価出力の解釈可能性を定量指標でモニタリング・記録
Clause の細分番号(例 6.1 など)は有償原本で確認してください。公開情報では上位 Clause のみ明示されています。

XAIとは何か──主要手法の速習

ホワイトボックス vs. ブラックボックス

  • ホワイトボックス:決定木・線形回帰など、内部構造を直接理解できるモデル
  • ブラックボックス:ニューラルネット・勾配ブースティング系モデルなど。XAI による透明化が必須

代表的な XAI 手法

手法目的最新動向
SHAPグローバル/ローカル双方の特徴量寄与度を可視化PyPI 最新版 v0.47.2(2025-04-17) で Transformer 系 API の計算効率を最適化
LIME個別予測の近傍線形近似で直感的な説明を生成公式 GitHub でバグフィックス中心のマイナーアップデートを継続
決定木(scikit-learn など)モデル自体がホワイトボックス。分岐ルールをそのまま説明に利用scikit-learn v1.5 系で並列学習と後剪定 パフォーマンス改善

ISO 42001審査で評価される XAI 実装チェックリスト

  1. 説明出力の再現性:学習コード・Seed・パッケージバージョンを CI/CD で固定
  1. バイアス検出と影響度分析:少なくとも年 1 回、SHAP/LIME で人口統計グループ別寄与度を検証
  1. 監査証跡:推論 API にリクエスト ID を付与し、XAI メタデータを同時保存
  1. 利用者向け UI:非エンジニアでも理解できる可視化ダッシュボード(例:Azure Responsible AI Dashboard)
  1. 第三者レビュー:モデル更新時は内部監査または外部監査人が説明内容を確認

MLOps × XAI:ライフサイクル全体への組込み

  1. データ収集・前処理:匿名化とサンプリングバイアスを自動チェック
  1. 学習・検証:パイプライン内で Captum/SHAP ジョブを実行し、モデルアーティファクトに説明情報をバンドル
  1. デプロイ:オンライン推論時は SHAP 値などの説明メタデータを Redis などのインメモリ KVS に短期キャッシュし、レイテンシは リアルタイム運用の目安とされる 100〜200 ms に収まるようにチューニングする
  1. モニタリング:Prometheus で収集した入力・出力/説明分布を Grafana ダッシュボードで可視化し、訓練分布との乖離が閾値を超えた場合にアラートを発報する構成が広く採用されている

ツール&プラットフォーム選定ガイド

区分代表例主な機能/利点コスト感*備考
オープンソースSHAP / Captum / LIMEローカル環境で完結・カスタマイズ自在無償(OSS ライセンス)+内製人件費バージョン管理と運用体制が必須
クラウドサービスAzure Responsible AI / GCP Explainable AIGUI ダッシュボードで迅速導入従量課金 例)Azure ML オンライン推論 約 $0.50 / 1,000 予測 ISO 42001 専用テンプレートは現時点で未提供
商用オンプレ製品IBM Watson OpenScaleバイアス検出や決定木・SHAP 由来の説明生成を可視化ライセンス制(要問い合わせ) データ保護要件が厳しい業界向け
文書テンプレートDocumentation Consultancy / ITSM DocsISO 42001 文書雛形キットを提供買い切り $399〜 内製より短期間で文書を整備
* コスト感は 2025 年7月時点の公表価格・ベンダー情報。為替やプラン改定により変動する場合があります。

ガバナンスとドキュメント整備

  • AIポリシー:開発方針・説明基準・ロール責任を明示
  • リスク評価シート:影響度×発生確率マトリクスで XAI 不足リスクを定量化
  • 教育プログラム:年 2 回、非エンジニア向け「XAIとは何か」ワークショップを実施
  • 監査証跡テンプレ:モデルバージョン、主要特徴量トップ 5、データセット ID を自動記録

ケーススタディ:ISO 42001取得を加速した企業の XAI 運用例

企業業種XAI 施策主な成果
Xayn GmbHAI 検索SHAP+可視化 UI を検索結果に実装ISO 42001 認証取得に向けた説明可能性体制を整備
Integral Ad ScienceアドテックAzure Responsible AI でモデル監査透明性レポートを広告主に公開し、審査を円滑化

中小企業向けロードマップ:6 か月で始める XAI & ISO 42001

フェーズ期間主タスク
診断0–1 か月リスクギャップ分析、PoC 選定
PoC1–3 か月OSS(SHAP/LIME)で説明可視化
運用設計3–4 か月MLOps+XAI パイプライン構築
内部監査4–5 か月監査証跡整備・改善
認証申請5–6 か月外部審査・是正対応

まとめ & 次の一歩

セクションキーメッセージ
ISO 42001Clause 6・8・9 で説明可能性が必須要件
XAI手法SHAP・Captum v0.7 で LLM 対応が進展
実装チェック再現性・バイアス検出・監査証跡が鍵
MLOps統合データ→推論→監視まで一貫適用
ケース事例認証取得企業は XAI ダッシュボードを全社展開
SMEロードマップ6 か月・5 フェーズで無理なく導入可能

参考リンク

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