【XAI完全ガイド】ISO 42001で求められる説明可能AIの必修ポイント
ISO 42001時代になぜXAIが必須なのか
- 信頼性の担保:ブラックボックスモデルでは審査時に根拠を示せず、ISO 42001 の取得が難航しやすい
- 規制リスクの低減:EU AI Act は 2026 年 8 月までに全面適用。高リスク AI で説明責任を怠ると、グローバル売上高の最大 7 % あるいは 3,500 万 €(約60 億円/ 202507時点レート)の罰金が科され得る
- 違反類型により下記のような段階があります
- 35 M € / 7 %(禁止行為等)・・・(約60 億円/ 202507時点レート)
- 15 M € / 3 %(高リスク義務違反)・・・(約25.7 億円/ 202507時点レート)
- 7.5 M € / 1 %(虚偽情報)・・・(約12.8 億円/ 202507時点レート)
- ビジネス価値の向上:意思決定プロセスの可視化は、顧客・監査人からの信頼獲得に直結する
「2026 年 8 月までに全面適用」とは?
EU AI Act(AI 規則)は 2024 年に成立し、次の 3 段階で施行 されます。
段階 | 内容 | 発効時期 | 日本企業への影響 |
---|---|---|---|
第 1 段階 | 禁止 AI(無差別監視など)の排除 | 2025 年 2 月 | EU 向け提供がなければ影響なし |
第 2 段階 | 高リスク AI システムの適合義務(説明責任・監査体制など) | 2026 年 8 月 ←これが「全面適用」と呼ばれる | EU で提供・利用する場合のみ対象 |
第 3 段階 | GPAI(基盤モデル/LLM など)の追加義務 | 2025 年 8 月〜順次 | EU 向けモデル提供がある場合に対象 |
💡ポイント
- 日本国内限定で開発・提供する AI には原則適用されません。
- ただし EU 顧客が使う・EU からアクセスできる 場合は、開発拠点が日本でも Act の義務が発生します。
AI を作る会社は全部、説明責任を負わされる?
EU AI Act は リスクベース の枠組みで、義務の有無を以下のように分けます。
リスクレベル | 主な対象例 | 主な義務 | 日本企業への関係 |
---|---|---|---|
禁止(Unacceptable) | 社会的信用スコア、無差別監視 | 全面禁止 | 日本でも EU 向けに提供すると違反 |
高リスク(High) | 採用・教育選考、与信審査、重要インフラ | 登録・技術文書・監査・人による監督 | EU 市場で提供・運用するときのみ対象 |
限定リスク(Limited) | チャットボット、生成 AI の出力 | 透明性表示(「AI 使用中」ラベル等) | EU 向け SaaS で適用 |
最小リスク(Minimal) | スパムフィルター、ゲーム AI | 義務なし | 影響ほぼなし |
要するに
- 高リスク AI を EU で「開発・提供・運用」する企業だけ が重い説明責任を負う。
- 日本国内だけで使う/提供する 場合は、EU AI Act の直接義務は 原則生じない。
- ただし 「EU ユーザーが結果に依存するサービス」(採用 SaaS など)に使うと、日本企業でも Act の高リスク義務が掛かる。
使い分けの具体例
事例 | EU AI Act の適用 | 対応策 |
---|---|---|
日本企業が日本ユーザー向けにのみ生成 AI を提供 | 適用外 | 特に Act への対応不要 |
同じ生成 AI を EU 向けにも API で提供 | 限定リスク(透明性義務など) | 利用規約と UI に「AI 生成物」である旨を表示 |
採用選考 AI を欧州支社で運用 | 高リスク | 技術文書・リスク管理・人による監督体制を構築 |
日本の製造業が欧州工場向けに品質検査 AI を販売 | 高リスク | CE マーキング相当の適合評価が必要 |
💡まとめ
- 日本市場だけ で AI を提供・利用する限り、EU AI Act は 直接適用されない。
- EU 顧客・パートナー・拠点と関わる場合――たとえ開発が日本でも 適用対象 になる。
- 将来 EU 展開の可能性がある企業は、初期設計段階から EU AI Act の要件(透明性・ログ保存など)を意識した方がコストを抑えられる。
ISO 42001 の概要と「説明可能性」要件
ISO 42001 は PDCA サイクルを AI 向けに拡張した構成で、Clause 4〜10 が主な要求事項です。なかでも説明可能性(Explainability)は次の Clause に関連します。
Clause | 領域 | 説明可能性チェックポイント |
6 – Planning | リスクおよび機会への取組み | AI 判断が利用者へ与える影響を特定し、説明戦略を計画 |
8 – Operation | 運用管理 | モデルのロジックや学習データを再現可能な形で保管 |
9 – Performance Evaluation | 監視・測定・分析および評価 | 出力の解釈可能性を定量指標でモニタリング・記録 |
Clause の細分番号(例 6.1 など)は有償原本で確認してください。公開情報では上位 Clause のみ明示されています。
XAIとは何か──主要手法の速習
ホワイトボックス vs. ブラックボックス
- ホワイトボックス:決定木・線形回帰など、内部構造を直接理解できるモデル
- ブラックボックス:ニューラルネット・勾配ブースティング系モデルなど。XAI による透明化が必須
代表的な XAI 手法
手法 | 目的 | 最新動向 |
SHAP | グローバル/ローカル双方の特徴量寄与度を可視化 | PyPI 最新版 v0.47.2(2025-04-17) で Transformer 系 API の計算効率を最適化 |
LIME | 個別予測の近傍線形近似で直感的な説明を生成 | 公式 GitHub でバグフィックス中心のマイナーアップデートを継続 |
決定木(scikit-learn など) | モデル自体がホワイトボックス。分岐ルールをそのまま説明に利用 | scikit-learn v1.5 系で並列学習と後剪定 パフォーマンス改善 |
MLOps × XAI:ライフサイクル全体への組込み
- データ収集・前処理:匿名化とサンプリングバイアスを自動チェック
- 学習・検証:パイプライン内で Captum/SHAP ジョブを実行し、モデルアーティファクトに説明情報をバンドル
- デプロイ:オンライン推論時は SHAP 値などの説明メタデータを Redis などのインメモリ KVS に短期キャッシュし、レイテンシは リアルタイム運用の目安とされる 100〜200 ms に収まるようにチューニングする
- モニタリング:Prometheus で収集した入力・出力/説明分布を Grafana ダッシュボードで可視化し、訓練分布との乖離が閾値を超えた場合にアラートを発報する構成が広く採用されている
ツール&プラットフォーム選定ガイド
区分 | 代表例 | 主な機能/利点 | コスト感* | 備考 |
オープンソース | SHAP / Captum / LIME | ローカル環境で完結・カスタマイズ自在 | 無償(OSS ライセンス)+内製人件費 | バージョン管理と運用体制が必須 |
クラウドサービス | Azure Responsible AI / GCP Explainable AI | GUI ダッシュボードで迅速導入 | 従量課金 例)Azure ML オンライン推論 約 $0.50 / 1,000 予測 | ISO 42001 専用テンプレートは現時点で未提供 |
商用オンプレ製品 | IBM Watson OpenScale | バイアス検出や決定木・SHAP 由来の説明生成を可視化 | ライセンス制(要問い合わせ) | データ保護要件が厳しい業界向け |
文書テンプレート | Documentation Consultancy / ITSM Docs | ISO 42001 文書雛形キットを提供 | 買い切り $399〜 | 内製より短期間で文書を整備 |
* コスト感は 2025 年7月時点の公表価格・ベンダー情報。為替やプラン改定により変動する場合があります。
まとめ & 次の一歩
セクション | キーメッセージ |
ISO 42001 | Clause 6・8・9 で説明可能性が必須要件 |
XAI手法 | SHAP・Captum v0.7 で LLM 対応が進展 |
実装チェック | 再現性・バイアス検出・監査証跡が鍵 |
MLOps統合 | データ→推論→監視まで一貫適用 |
ケース事例 | 認証取得企業は XAI ダッシュボードを全社展開 |
SMEロードマップ | 6 か月・5 フェーズで無理なく導入可能 |
参考リンク
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