【徹底解説】「生成AIで画像生成」は著作権法に触れるか?違法にならないための考え方
[updated: 2024-08-06]
こんにちは。今回の筆者も株式会社Elcamyのデータサイエンティストの近江俊樹です。AIエンジニアとして現在はR&Dに関わったり、個人的にもAI開発をしていたりしますが、最近話題の「生成AI」と「著作権」の関係は、僕たちにとっても関心の的です。
今回は、生成AIと著作権の最新事情について、できるだけ分かりやすく解説していきます。
初めから詳細を知りたい方は以下の資料を参考にしてください。
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。法律問題に関するご相談は、必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害についても、当社は一切責任を負いません。
生成AIの目覚ましい進化と著作権問題の深刻化著作権法:創造の世界を守る「番人」著作権法が保護するもの:「著作物」の世界「表現」と「アイデア」の境界線:どこまでが著作権で守られるのか生成AIが著作権に与えるインパクト:2つの段階で考える① AI開発・学習:大量のデータがAIの「先生」② 生成・利用:AIが生み出す「創造性」の行方AI開発のための「学習」と「著作権」をもう少し詳しく:法整備の波「非享受型」の利用とは?:AI学習は「読書」?それとも「分析」?AI学習と著作権:許諾は不要?AIが生成したコンテンツは「作品(著作物)」と言えるのかAI生成物と著作物:ポイントは「人間の関与」「創作意図」と「創作的寄与」:人間 vs AI の創造性の対決AI生成物の「著作物性」:具体的な例AIは「道具」なのか?: 著作権をめぐる熱い議論は続く生成AIと著作権、未来への展望
ElcamyではGoogle Cloudを用いたデータ分析基盤の構築や、生成AIを用いた業務支援まで対応可能です。生成AIやデータ活用によって事業を前に進めたい方は、お気軽にご相談ください。
生成AIの目覚ましい進化と著作権問題の深刻化
「生成AI」。 最近よく耳にするようになりましたよね。
文章、画像、音楽、プログラムコードなど、ありとあらゆるコンテンツをある程度、頭の中でイメージさえできれば生み出すことができる、まさに「それって魔法じゃん」と呼べる技術です。
「ChatGPT」や画像生成AI「Midjourney」、「Novel AI」、「Stable Diffusion」などは、その代表例であり、すでに様々な分野で活用され、私たちの生活に浸透しつつあります。
しかし、この革新的な技術の裏側で、新たな課題が持ち上がっています。
そう、「著作権」の問題です。
「AIが作った作品って、結局誰が作ったことになるの?」
「生成AIに大量の画像を学習させたけど、著作権的に大丈夫?」
このような疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。
僕自身も、AIエンジニアとして、日々この問題と向き合っています。
著作権法:創造の世界を守る「番人」
そもそも著作権とは、一体何を守ろうとしている法律なのでしょうか?
簡単に言うと、 著作権法は、「創造物」である「著作物」に対する、著作者の権利を守ること を目的としています。
「文化の発展」を促すためには、著作者の創作意欲を保護することが重要です。しかし、著作物を自由に使えるようにしないと、「文化の発展」を阻害してしまう可能性もあります。
著作権法は、この「著作者の保護」と「著作物の利用」のバランスをとるために、様々な規定が設けられているんです。 ちょっと難しい話ですが、このバランス感覚が非常に重要になってきます。
著作権法が保護するもの:「著作物」の世界
では、著作権法が保護する「著作物」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか?
「著作物」は、小説、音楽、絵画、写真、映画など、 「思想または感情を創作的に表現したもの」 であり、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいいます。 誰かの頭の中で生まれた「アイデア」が、形となって表現された時に初めて「著作物」として認められ、著作権法の保護を受けることができるんです。
逆に、著作権法では保護されないものもあります。
保護されるもの | 保護されないもの |
小説・詩などの文章表現 | 単なるアイデア |
楽曲・演奏 | ありふれた表現や事実の羅列 |
絵画・彫刻 | 作風・画風 |
写真 | アイデアそのもの |
建築物 | 単なるデータ |
「表現」と「アイデア」の境界線:どこまでが著作権で守られるのか
著作権法はあくまでも「表現」を保護するものであり、「アイデア」自体は保護の対象外です。 例えば、ピカソ風の絵画を描いたとしても、ピカソの「画風」そのものが保護されているわけではありません。
「著作物」と「アイデア」の線引きは、時に非常に難しい問題です。 AI技術が進歩し、より複雑で高度な表現が可能になった現在、この線引きはますます重要になってきています。
生成AIが著作権に与えるインパクト:2つの段階で考える
さて、ここからは本題である生成AIと著作権の関係について詳しく見ていきましょう。
生成AIと著作権の関係を考える上で重要なのは、 AIがコンテンツを生み出すプロセスを「以下の2つの段階」に分けて考えること です。
段階 | 説明 |
AI開発・学習 | AIは、人間が入力した大量のデータ(学習用データ)を学習し、コンテンツ生成に必要なパターンやルールを学習する段階。 |
生成・利用 | 学習を終えたAIが、ユーザーの指示(プロンプト)に従って、画像、文章、音楽など、様々なコンテンツを生成する段階。 |
① AI開発・学習:大量のデータがAIの「先生」
第一段階は、 AI開発・学習 です。
このステージでは、生成AIは、人間が用意した大量のデータ(学習用データ)を学習することで、精巧なコンテンツを生成する能力を身につけていきます。
イメージとしては、画家が巨匠の絵を模写して画力を磨くようなものでしょうか。 生成AIにとって、学習データはまさに「先生」のような存在といえます。
しかし、ここで著作権問題が発生する可能性があります。 生成AIの学習には、時に膨大な量の著作物が利用されます。
そのため、著作権者の許諾を得ずに、著作物を学習用データとして利用した場合、著作権侵害となる可能性もあると思われますが、ならない場合もあるといった具合です。
著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、最終的には司法の場で個別具体的に判断されます。
(引用元:A I と 著 作 権)
② 生成・利用:AIが生み出す「創造性」の行方
第二段階は、 生成・利用です。
学習を終えたAIは、ユーザーの指示(プロンプト)に従って、画像や文章など、様々なコンテンツを生成します。
例えば、「ゴッホの画風で、東京タワーを描いて」というプロンプトを入力すれば、AIはゴッホ風のタッチで東京タワーを描いた絵画を生成してくれるでしょう。
この段階でも、生成されたコンテンツが既存の著作物と酷似している場合、著作権侵害となってしまう可能性があります。 AIが生成したからといって、無条件に自由に使えるわけではありません。
AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます。⇒「類似性」及び「依拠性」による判断
(引用元:A I と 著 作 権)
AI開発のための「学習」と「著作権」をもう少し詳しく:法整備の波
AIの学習に著作物を利用する場合、従来は、著作権者の許諾を得ることが原則でした。 しかし、AI開発・学習段階における著作物の利用をスムーズにし、「文化の発展」を促進するため、2018年の著作権法改正により、新たな権利制限規定(法第30条の4) が設けられました。
この規定により、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」 であれば、著作権者の許諾を得ずに、AIの学習に著作物を利用することが可能になりました。
「非享受型」の利用とは?:AI学習は「読書」?それとも「分析」?
少し分かりにくい「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「享受」とは、簡単に言うと、 著作物に触れることで、私たちが知的・精神的な満足感を得ること を指します。
例えば、小説を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりする行為は、すべて「享受」を目的とした行為といえます。 創造性豊かな物語世界に没頭したり、登場人物の心情に共感したりすることで、私たちは大きな感動や喜び、興奮、時には悲しみといった感情を味わうことができます。 これらの感情こそが、「享受」の証といえるでしょう。
一方で、AIの学習は、このような「享受」を目的としたものではありません。
AIは、人間のように感情移入しながら小説を読んだり、音楽に心を揺さぶられたりするわけではありません。 あくまでも、「どのように文章が構成されているか?」「音楽にはどのようなパターンが存在しているか」といったデータを分析し、そこからコンテンツ生成に必要な法則やパターンを抽出しているにすぎません。
したがって、AIの学習は「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」に該当し、著作権法第30条の4の要件を満たすと解釈することができます。
AI学習と著作権:許諾は不要?
文化庁の資料では、AIの学習における著作物の利用は、原則として許諾は不要という見解が示されています。
しかし、「著作権者の利益を不当に害する」と認められる場合は、この限りではありません。
具体的には、情報解析用として販売されているデータベース(ライセンス市場が成り立っている著作物)を、AI学習目的で複製する場合 などが挙げられます。
AI学習のための著作物利用は、まだ新しい分野であり、ケースバイケースで判断が分かれます。 そのため、文化庁は、「AIの発展・普及に応じて、考え方を整理し、周知を進めていきます。」という姿勢を示しています。
AIが生成したコンテンツは「作品(著作物)」と言えるのか
さて、ここまではAIの学習段階における著作権問題について見てきましたが、次は、生成・利用段階における問題、特にAIが生成したコンテンツ(AI生成物)の「著作物性」という点に焦点を当てていきましょう。
AI生成物と著作物:ポイントは「人間の関与」
AIが生み出すものは、時に私たちの想像をはるかに超える、独創的でアーティスティックなものもあります。
しかし、AIが生成したからといって、そのすべてが著作権法で保護される「著作物」として認められるわけではありません。
「著作物」とは、「思想または感情を創作的に表現したもの」と定義されています。 つまり、創造性や個性が表現されたものでなければ、「著作物」とは認められないのです。
AI生成物が「著作物」に該当するかどうか判断する上で重要なポイントは、 「人間の創作意図」と「創作的寄与」 が認められるか否か、という点です。
「創作意図」と「創作的寄与」:人間 vs AI の創造性の対決
「創作意図」とは、簡単に言うと、「どのような作品を作りたいのか?」という、作り手の明確な意図 のことです。
単に「AIに任せておけば、何かすごいものを作ってくれるだろう」といった安易な気持ちではなく、「こんな作品を作りたい」という明確なビジョンやコンセプトを持っているかどうかが重要になります。
「創作的寄与」とは、人間がAIの力を借りながら、積極的に作品制作に関与していること を指します。
例えば、AIが出力したものを単に受け入れるのではなく、それを元に修正を加えたり、組み合わせたり、人間の感性で再構築していく作業が「創作的寄与」にあたります。
AI生成物の「著作物性」:具体的な例
それでは、具体的な例を挙げて考えてみましょう。
ケース1
ユーザーがAIに対して、「男性を描いて」というプロンプト(簡単な指示)を入力し、生成された画像をそのままSNSに投稿した。
この場合、ユーザーは単にAIに指示を出しただけであり、「創作意図」や「創作的寄与」は認められないでしょう。
ケース2
ユーザーが生成したいイメージを明確に持ち、AIに複雑なプロンプトを入力し、出力された画像を編集ソフトで加工したり、他の画像と組み合わせたりして、作品を作り上げた。
この場合、ユーザーは「創作意図」を持ち、AIを活用しながら「創作的寄与」を行っていると考えられるため、「著作物」として認められる可能性があります。
AIは「道具」なのか?: 著作権をめぐる熱い議論は続く
AI生成物の「著作物性」に関する議論は、まだ始まったばかりです。 AI技術の進化はとどまることを知らず、今後さらに複雑で高度な表現が可能になるでしょう。
AIは「単なる道具」なのか?それとも「創造のパートナー」なのか? その答えはまだ出ていません。
生成AIと著作権、未来への展望
今回は、生成AIと著作権問題について解説しました。 ポイントをまとめると以下のようになります。
- 生成AIと著作権
- AI開発・学習段階:原則、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用可能
- 生成・利用段階:著作権侵害となるかは人がAIを利用せず絵を描いた等の場合と同様に判断
- AI生成物の著作物性
- 人間の創作意図と創作的寄与が認められない場合、著作権法による保護を受けられない
- 創作意図と創作的寄与があれば、生成AIで生み出した作品にも著作権が認められる可能性
最後までお読みいただきありがとうございました。
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