【AIの暴走は起こるのか?】生成AIの「共食いハルシネーション」

[updated: 2024-08-22]
 
近年、私たちの生活に急速に浸透しつつある生成AI。文章作成、画像生成、音楽制作など、その応用範囲は多岐に渡り、まさに革命的な技術と言えるでしょう。しかし、この革新的な技術の裏側には、まだ解決されていない問題が潜んでいます。
その一つが、「共食いハルシネーション」と呼ばれる現象です。
まるでSF映画のような言葉ですが、これは決して絵空事ではありません。今回は、この「共食いハルシネーション」が一体どのような現象で、私たちにどのような影響を与える可能性があるのかについて、深く掘り下げていきましょう。

共食いハルシネーションとは?

「共食いハルシネーション」とは、生成AIが自己生成したコンテンツを学習データとして再利用することで、出力の質が徐々に劣化していく現象を指します。
AI、特に深層学習を用いたAIは、大量のデータからパターンや規則性を学び、新しいデータを生み出します。この学習プロセスにおいて、もし質の低いデータや偏ったデータが紛れ込むと、AIはその影響を受けてしまい、出力の精度や信頼性が低下してしまう可能性があります。
これを、AIが自身の「間違った答え」を学習し続けることに例えて、「共食いハルシネーション」と呼ぶことがあります。

共食いハルシネーションのメカニズム

それでは、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
AI、特に深層学習をベースとした生成AIモデルは、統計的な確率に基づいて出力を生成します。例えば、大量の猫の画像を学習したAIは、「猫の特徴」を統計的に捉え、新しい猫の画像を生成することができます。
しかし、この学習プロセスに自己生成データが混入すると、問題が発生します。
最初のうちは、AIが生成するデータは比較的高品質です。しかし、生成データが増えるにつれて、AIが学習するデータセットにおける自己生成データの割合が増加し、次第に「偏り」が生じてきます。
例えば、猫の画像を生成するAIが、特定の猫の品種ばかりを生成するようになったとします。このAIが生成したデータのみで学習を続けると、AIは「猫は特定の品種ばかりである」という誤った認識を持つようになり、他の品種の猫を生成することが困難になってしまいます。
これが「共食いハルシネーション」のメカニズムです。
学習データ生成データ
多様な猫の画像比較的正確な猫の画像
+ 自己生成データ(特定の品種の猫ばかり)特定の品種の猫ばかりの画像

共食いハルシネーションの実例とその影響

共食いハルシネーションは、私たちの社会にどのような影響を与えるのでしょうか?
具体的な例を挙げながら考えてみましょう。
 
1. フェイクニュースの拡散
生成AIを用いて、まるで本物のようなニュース記事や動画を自動生成することが可能になっています。もし、この技術が悪意のある人物に利用されれば、フェイクニュースが大量に生成され、拡散される危険性があります。
 
2. 偏った情報による差別
就職活動の際に、AIを用いて応募者の書類選考を行う企業が増えています。もし、このAIが学習するデータに偏りがあると、特定の属性を持つ人々が不利な扱いを受ける可能性があります。
 
3. クリエイティブ産業への影響
生成AIは、絵画、音楽、小説など、クリエイティブなコンテンツを生成することができます。しかし、共食いハルシネーションによって生成されるコンテンツは、既存の作品の模倣に過ぎず、真にオリジナリティのある作品とは言えません。

技術的対策とその限界

では、共食いハルシネーションを防ぐためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか?
 
1. データの品質管理
AIの学習に用いるデータの品質を厳密に管理することが重要です。具体的には、人間が作成したデータとAIが生成したデータを明確に区別し、AIの学習には人間が作成した高品質なデータのみを使用するなどの対策が考えられます。
 
2. 多様なデータの学習
特定の種類のデータに偏ることなく、多様なデータを学習させることも重要です。例えば、猫の画像を生成するAIであれば、様々な品種の猫の画像だけでなく、犬や鳥など、他の動物の画像も学習させることで、偏りを抑制することができます。
 
3. 生成データのフィルタリング
AIが生成したデータは、そのまま学習データとして再利用するのではなく、一度人間がチェックし、品質の低いデータや偏ったデータを取り除くなどのフィルタリングを行うことが有効です。
これらの対策によって、共食いハルシネーションのリスクを軽減することは可能ですが、完全に防ぐことは難しいのが現状です。

未来予測: AIの自己崩壊の可能性

共食いハルシネーションは、AIの未来に暗い影を落とす可能性も秘めています。
もし、自己生成データによる学習が繰り返されると、AIは現実世界から乖離した独自の「世界」を構築してしまうかもしれません。その結果、AIが生成する情報はますます現実離れしたものとなり、最終的には人間には理解できない、意味不明な情報ばかりを生成するようになる可能性も考えられます。
これが、AIの「自己崩壊」と呼ばれるシナリオです。

人間とAIの関係性の再考

共食いハルシネーションは、AI技術の進歩に伴い、私たちが直面する可能性のある重要な課題の一つです。この問題を解決するためには、技術的な対策だけでなく、AIと人間の関係性について改めて考える必要があるでしょう。
AIはあくまでも人間が開発した道具であり、その出力は人間がコントロールする必要があります。AIの限界を理解し、その上でAIをどのように活用していくのか、私たち一人ひとりが真剣に考えるべき時が来ているのではないでしょうか。

結論: AIと共存する未来

生成AIは、私たちに多くの恩恵をもたらす可能性を秘めた技術です。しかし、その一方で、「共食いハルシネーション」のような問題点も存在することを忘れてはなりません。
株式会社Elcamyでは、AI技術の倫理的な側面にも配慮しながら、お客様のビジネス課題解決に貢献できるよう、日々研究開発に取り組んでおります。
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