
AIを使い続けると思考力が低下するのか——MIT Media Labの研究チームが2025年6月にこの問いに関するプレプリント論文を発表しました。ChatGPTでエッセイを書き続けた参加者は、他の条件の参加者より脳の関与度が低い傾向を示したと報告されています。
ただし、この「思考力低下」への不安と、SNSなどで話題になる「ChatGPTの応答性能自体が落ちている」という話はまったく別の問題です。後者はモデルの仕様変更やサーバー負荷に関する技術的な話題で、本記事が扱うのは前者、つまり人間側の認知機能への影響です。
業務でChatGPTを日常的に使っているビジネスパーソンの中には、「自分で考える前にAIに聞く癖がついた」「文章力が落ちた気がする」と感じている方も多いはずです。この記事では、MIT研究を中心に、Microsoft/CMU研究・Gerlich研究という3つの一次情報から「なぜ思考力低下が起きるのか」を整理し、Frontiers in Psychology誌の調査も交えながら、業務でAIを活用しながら思考力を維持する方法を解説します。
- MIT研究が報告する「認知的負債」:ChatGPTでエッセイを書き続けた参加者は、検索エンジン利用者や道具なしで書いた参加者より脳の接続性が弱く、自分の文章への当事者意識も低い傾向
- やめても関与度はすぐ戻らない可能性:AI利用をやめて自力で書く条件に戻しても、脳の関与度がすぐには元の水準に戻らなかったという結果
- 業務でも似た傾向が確認されている:Microsoft/CMUの調査における、AIへの信頼度が高い人ほど自分で検証する労力が減る傾向
- 利用頻度と批判的思考力の関連:Gerlich, 2025の調査による、AI利用頻度が高い層ほど批判的思考力が低い傾向
- AIへの頼り方の「質」が分かれ目:鄭州大学の縦断調査による、意思決定ごと委ねる使い方は認知的な成果の低下、判断を保ったまま使う使い方は良好な成果との関連
- 対策:「まず自分で考えてからAIに壁打ちする」など、思考力を保ちながら業務でAIを使う具体的な方法
MIT研究が報告する「認知的負債」とは?
認知的負債(cognitive debt)とは、AIによってその場の思考の労力は減る一方、批判的思考力や独自性の低下として後から現れる長期的なコストを指す概念です。MIT Media Labの研究チームが2025年6月にarXivで発表したプレプリント論文が、この現象をこの言葉で報告しています(Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task)。
この論文は2026年9月時点で査読前のプレプリントです。実験手法に対する批判的なコメント論文も別途公開されており、結果の解釈は今後変わる可能性があります。断定的に受け取らず、1つの報告として参照してください。
どんな実験デザインだったのか?
この実験の概要は次のとおりです。
- 参加グループ:LLM群(ChatGPT使用)/検索エンジン群(Google検索使用)/ツール不使用群(脳のみ)の3グループ
- セッション構成:同じ条件でエッセイを3回執筆するセッション1〜3(54名参加)、条件を入れ替えるセッション4(18名参加)
- セッション4の入れ替え内容:元LLM群を道具なしの条件に再配置(LLM-to-Brain)、元ツール不使用群をLLM条件に再配置(Brain-to-LLM)するクロスオーバー設計
- 測定方法:EEG(脳波計)による脳内接続性の解析、NLP(自然言語処理)によるエッセイ分析、人間の教員とAIによる採点
脳の接続性はどう変わった?

ツール不使用群が最も強く分散したネットワークを示し、検索エンジン群が中程度、LLM群が最も弱い接続性を示しました。道具に頼る度合いが強くなるほど、脳の接続性が段階的に弱くなる傾向があったということです。
AIをやめると脳の関与度はすぐ戻る?
セッション4のクロスオーバーでは、元LLM群は道具なしの条件に戻された場合でも、アルファ波・ベータ波帯域の接続性は低下したままであり、関与度の低いパターンが見られました。一方、元ツール不使用群はLLM条件に切り替わった場合、検索エンジン群に近い高い活性が見られたほか、記憶想起の成績向上や、視覚処理に関わるとされる後頭頭頂部・前頭前野領域の再活性化も確認されています。
この結果は、LLMを使用していた参加者がツールなしの条件に切り替えた直後には、Brain-only群と同程度の脳活動パターンを示さなかった可能性を示唆しています。ただし、セッション4の参加者は18名と少なく、長期的な影響や回復に必要な期間まで明らかになったわけではありません。
自分の文章への当事者意識に差はあった?
自分が書いたエッセイへの当事者意識(ownership)を尋ねる自己申告アンケートでは、LLM群のスコアが3群中最も低く、ツール不使用群が最も高いという結果でした(Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task)。
LLM群の参加者は、自分が書いたはずのエッセイから正確に引用することにも苦労していたと報告されています。自分の言葉で書いたという実感が薄いまま文章を仕上げてしまう、という状態が起きていた可能性があります。
業務での批判的思考はどう変わる?
MIT研究は個人のエッセイ執筆というタスクを対象にした実験でしたが、企業で働く知識労働者を対象にした調査でも、道具への依存度と検証行動の関係について似た傾向が確認されています。AIへの信頼度が高い人ほど、業務における批判的思考の実行度や労力は少なくなる傾向があります(The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers)。
これはMicrosoft ResearchとCarnegie Mellon Universityの共同調査による報告です。週1回以上ChatGPTやCopilotなどを業務利用する知識労働者319名を対象に、936件の実際のAI利用事例を分析しています。一方で、自分自身のタスク遂行能力への自信が高い人ほど、批判的思考は多くなる傾向も示されました。つまり「AIを信じ切っているか」と「自分の実力に自信があるか」という2つの要因が、AI利用時の検証行動を左右しているということです。
同調査ではさらに、AI利用によって批判的思考の性質が「情報の検証」「AI応答の統合」「タスクの監督」へとシフトしていることも報告されています。ゼロから考える労力ではなく、AIの出力をチェックし責任を持つ労力に置き換わっているという指摘です。
AI利用頻度と批判的思考力の関係は?
AIツールの利用頻度が高い人ほど、批判的思考力が低い傾向にあります(AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking)。
これはGerlich(2025)による666名を対象とした混合手法調査の報告です。この関係は、認知的オフローディング(自分で考える代わりに外部ツールに思考の一部を委ねること)によって媒介されると説明されています。若年層ほどAI依存度が高く批判的思考スコアが低い傾向がある一方、学歴が高いほどAI利用の有無にかかわらず批判的思考スコアが高い傾向も報告されました。
この調査はアンケートベースの相関関係を示すものであり、MIT研究のような実験的な因果関係の証明ではありません。とはいえ、「頻繁に使う人ほど自分で考える機会が減りやすい」という傾向は、MIT研究・Microsoft/CMU研究と方向性が一致しています。
なぜ思考力低下が起きるのか?3つのメカニズム

ここまでの3つの一次情報を重ねると、思考力低下が起きる背景には共通するメカニズムが見えてきます。
- 検証行為の省略:AIへの信頼度が高いほど、出力をそのまま受け入れ、自分で検証する労力を省いてしまいます
- 当事者意識の希薄化:AIに文章や考えを任せる比重が増えるほど、自分がその成果物を作ったという実感が薄れます
- 認知的オフローディングの蓄積:思考の一部を外部ツールに委ねる状態が続くほど、自力で考える機会そのものが減っていきます
3つとも「AIを使うこと」自体が悪いのではなく、「検証せずに任せきりにする使い方」が積み重なることで起きる現象だという点が共通しています。
認知的オフローディングの「質」は結果を左右するのか?
3つ目のメカニズム「認知的オフローディングの蓄積」について、より詳しく調べた調査があります。Gerlich研究は「利用頻度」という切り口でAI依存と批判的思考力の相関を示しましたが、鄭州大学の研究はさらに踏み込み、同じ利用頻度でも「頼り方」によって結果が分かれる可能性があることを報告しています。論文は「重要なのは頻度そのものではなく、AIとの関わり方(manner)である」と結論づけています。
- 調査対象:中国・鄭州大学の研究チームによる、大学生・若手ナレッジワーカー589名
- 調査方法:2週間おきにオンラインアンケートを3回実施するパネル調査(実験ではなく自己申告アンケートベース)
- 調査内容:時間差を空けて原因→結果の順序を確保するため、3回に分けて質問
- 第1回:AIへの頼り方(従属的/自律的オフロード)とメタ認知的監視の傾向を回答
- 第2回(2週間後):意思決定権の委譲・内発的動機づけを回答
- 第3回(さらに2週間後):認知的な成果(4指標)を回答
- 測定項目:AIへの頼り方(従属的オフロード/自律的オフロード)、意思決定権の委譲度合い、内発的動機づけ、認知的な成果(自律的な遂行能力・創造性・深い処理・独立した判断の4指標)
調査の結果、AIへの頼り方によって、その後の結果は大きく異なっていました。
| 項目 | 従属的オフロード (AIの回答をそのまま使う、考える作業ごとAIに任せる) | 自律的オフロード (自分の判断を保ったまま道具として使う) |
|---|---|---|
| 意思決定権の委譲 | 進みやすい | 有意な影響なし (進みも抑えもしない) |
| 内発的動機づけ | 低下する | 保たれる |
| 認知的な成果 | 自己評価が低い傾向 | 良好 |
自律的オフロードは意思決定権の委譲を積極的に抑えるわけではなく、統計的に有意な関連が見られなかった点には注意が必要です。一方、自分の思考プロセスを振り返る「メタ認知的な監視」は意思決定権の委譲を和らげたものの、動機づけの低下そのものは防げなかったとも報告されています(Not all cognitive offloading is equal: distinguishing dependent and autonomous offloading to generative AI)。認知的オフローディングそのものが一律に悪いわけではなく、その「量」ではなく「質」が分かれ目だということです。
なお、この調査は中国の大学生・若手社会人(平均23.7歳)を対象にした自己申告アンケートに基づく相関関係であり、原論文自身も「AIオフローディングが認知能力そのものを向上・低下させる証拠として読むべきではない」と明記しています。業務でChatGPTを使う日本のビジネスパーソンにそのまま当てはまるとは限らない点には留意が必要ですが、「頼り方の質」という視点自体は、Gerlich研究とも矛盾しない補足知見として参考になります。
業務でAIを使いながら思考力を落とさないコツは?

思考力を落とさずにAIを使うコツは、AIに考えさせる前に自分の考えを言語化する順序を守ることです。
MIT研究のセッション4の結果が示すように、外部ツールへの依存度が高まった状態から抜け出すには時間がかかる可能性があります。前述の「自律的オフロード」の考え方に沿えば、AIを使うこと自体をやめるのではなく、自分の判断を保ったまま使う工程を業務の中に意図的に組み込むことが重要です。
- まず自分の考えを書いてからAIに壁打ちする:ゼロから生成させるのではなく、自分の仮説や構成案を先に作り、AIには壁打ち相手・推敲役として使います
- AIの回答を仮説として扱う:出力をそのまま採用せず、根拠となる情報を自分で確認してから使います。会議前の論点整理や資料の一次ドラフトなど、意思決定に直結する場面ほどこの確認を省略しないようにします
- 意図的にAIを使わない時間・タスクを設ける:企画の骨子作りや初稿執筆など、特定の工程だけは道具を使わずに行います
- チームでAIの使い方のルールを共有する:どの工程でAIを使い、どの工程は人が検証するかをあらかじめ決めておきます
よくある質問
Q: 査読前の研究なので信頼できないのでは?
MIT研究は2026年9月時点で査読前のプレプリントであり、確定した結論ではありません。実験手法に対する批判的なコメント論文も公開されているため、今後の追試や査読を経て解釈が変わる可能性があります。ただし、EEGによる脳内接続性の測定という実験的アプローチを取っている点、Microsoft/CMU研究・Gerlich研究といった別の手法の調査とも方向性が一致している点から、参考にする価値のある報告だといえます。なお、鄭州大学の研究(オフローディングの質に関する調査)は査読済みですが、対象は中国の大学生・若手社会人が中心である点には留意してください。
Q: ChatGPTを業務で使うこと自体をやめるべきですか?
いいえ、一次情報のいずれも「AIの利用自体をやめるべき」とは結論づけていません。Microsoft/CMU研究が示すのは、AIへの信頼度が高すぎると検証行動が減るという関係であり、使い方次第で結果は変わります。自分の考えを先に言語化してからAIに壁打ちする、出力を仮説として検証するといった使い方の工夫が重要です。
Q: 文章力が落ちた気がするのは思い込みでしょうか?
思い込みとは言い切れません。MIT研究では、ChatGPTでエッセイを書いた参加者の当事者意識(ownership)の自己申告スコアが最も低く、自分が書いたはずの文章を正確に引用することにも苦労していたと報告されています。「まず自分で書いてからAIで推敲する」順序に変えることで、当事者意識を保ちやすくなる可能性があります。
Q: この研究結果はChatGPT以外の生成AI(Claude、Geminiなど)にも当てはまりますか?
MIT研究はChatGPTを対象にした実験であり、他の生成AIモデルで同じ結果が出るかは個別に検証されていません。ただし、Microsoft/CMU研究はCopilotなど複数のAIツール利用者を対象にしており、「AIへの信頼度が高いほど検証行動が減る」という傾向は特定のツールに限らない可能性があります。
Q: 自分がAIに依存しすぎているか、どう判断すればいいですか?
明確な基準を示した一次情報はありませんが、参考になる目安はあります。Microsoft/CMU研究は「AIへの信頼度が高いほど検証行動が減る」傾向を報告しており、Gerlich研究はAI利用頻度と批判的思考力の低下が認知的オフローディングを介して関連すると報告しています。自分の判断として、AIの回答を検証せずにそのまま使う頻度が増えていないか、自分の言葉で内容を説明できない成果物が増えていないか、という2点を振り返ることが、依存度を見直すきっかけになります。
まとめ
「AI 思考力 低下」とは、AIに考える作業を任せ続けることで、脳の関与度や検証行動、自分の成果物への当事者意識が弱まっていく現象を指します。
- MIT研究:ChatGPTでエッセイを書き続けた参加者の脳内接続性が最も弱く、AI利用をやめても最初から道具なしで書いてきた参加者の2〜3回目より脳の接続性が低かったと報告しています
- 当事者意識(ownership):同研究では、AI利用者の自己申告スコアが最も低く、自分の文章を正確に引用することにも苦労していました
- Microsoft/CMU研究:AIへの信頼度が高い知識労働者ほど、業務で自分で検証する労力が減る傾向を報告しています
- Gerlich研究:AI利用頻度が高い層ほど批判的思考力が低い傾向を、認知的オフローディングを媒介要因として報告しています
- 3つのメカニズム:思考力低下は「検証行為の省略」「当事者意識の希薄化」「認知的オフローディングの蓄積」という共通メカニズムで起きていると整理できます
- 鄭州大学の縦断調査:589名を対象にした3回の調査では、AIの回答をそのまま使う、考える作業ごとAIに任せる使い方は認知的な成果の自己評価が低い傾向と、判断を保ったまま道具として使う使い方は良好な成果と関連することが報告されており、オフローディングの「質」が分かれ目だとわかります
- 対策の方向性:「AIをやめる」ことではなく、自分の考えを先に言語化してからAIに壁打ちする、出力を仮説として検証するなど、使い方を見直すことにあります
検証行動を習慣化し、AIを「考える代わり」ではなく「考えを深める道具」として使う姿勢を身につけておくことが、業務での長期的な活用につながります。
出典一覧
- 「Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task」 — Kosmyna et al., arXivプレプリント(2025-06-10、改訂: 2025-12-31)
- 「The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers」 — Microsoft Research(Lee et al., CHI 2025)(2025-04)
- 「AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking」 — Societies誌(MDPI)/Gerlich, M.(2025-01-03)
- 「Not all cognitive offloading is equal: distinguishing dependent and autonomous offloading to generative AI」 — Zhu et al., Frontiers in Psychology(2026-07-16)

執筆者:えだまめ
Elcamyでバックオフィスとブログ執筆を担当。AI未経験の状態からAI活用を学び、Claude CodeをはじめとするAIエージェントの実務活用法を発信している。
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